こんにちは。花祭窯おかみ&アートエデュケーターふじゆりです。
仕事柄、美術系の本を手に取る機会は多い方だと思います。美術系の本には、単行本サイズのほか、大型の書籍も多く、ビジュアルメインになると嵩張るものも多々。今回ご紹介する『美学への招待』は、中公新社の新書版です。新書は、様々な専門分野の入門書的な内容のものが多くありますね。知りたい分野の要点を抑えるのに手軽で、持ち歩きやすいサイズです。
本書は、わたしにとって「美学」の入門書として、最適の一冊でした。初版は二〇〇四年。二〇一九年に大幅アップデートしたそうで、わたしが手に取ったのは二〇二四年の増補6版。初版から二〇年以上経っても古臭さを感じないのは、増補の成果もさることながら、その内容が根本的・普遍的なものだからだと思います。
入門書と言いながら、手軽に美学的知識を得ることができる本ではありません。知るための本というよりは、自分の頭で考えるための本で、哲学的な趣があります。投げかけられるテーマのなかには「美術とアートとartの違い」の考察などもあり、思わず「無用の用」という言葉が頭に浮かびます。美術館を表す英語museumの語源には、哲学的な瞑想を行う場所を示す意味もあるので、本書を通して哲学的思索に浸ることは、著者の企図するところかもしれません。
実はわたしは、美術系の本でも、解説・知識・ノウハウ系のものは、できるだけ読まないようにしています。理由は、美術を鑑賞する際に、表面的な知識が「自分の目で見る」のを妨げることがあるから。知識があることでより深く鑑賞できる、とする説も一理ありますが、美術と人とのかかわりは、もっと感覚的で良いと思うのです。「感覚」は身体的なものであって、知性の働きとは異なるものであると、本書でも語られています。そんな、実生活には役立たなそうな問答を楽しめる方に、お勧めの一冊です。
花祭窯おかみ・ふじゆり(藤吉有里)
「古伊万里」の名で知られる肥前磁器の伝統工芸文化、技術を基にした窯元「花祭窯」のお内儀。おかみとして窯を支えつつ、自らもアートエデュケーターとしてMeet Me at Artを主宰する。
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