その18「対話型鑑賞法」

こんにちは。花祭窯おかみ・ふじゆりです。

文化の秋。この秋はじっくりと美術鑑賞をいかがでしょうか。とはいえ、美術館等に出かけなくても大丈夫です。
ご紹介するのは「対話型鑑賞法」による美術鑑賞。近年日本国内でもちょっとしたブームになってきているので、耳にしたことがある方もいらっしゃると思います。対話型美術鑑賞法には、目的や場面に応じてさまざまなアプローチがありますが、本日は、一人で簡単にできる、基本の鑑賞法=「見る」訓練法をご紹介。たくさん、いろいろな絵を観るのではなく、一枚の絵に向き合ってみましょう。

まずは1枚絵を選びます。家に飾ってあるものでも、本や雑誌に載っているものでも、美術館のホームページに載っているものでもOK。誰が描いたものでも大丈夫です。わたしは、一人で家で鑑賞トレーニングをするときは、美術館のホームページに載っているものを使ったり、息子が学校の授業で描いたものを使ったりしています。

絵が決まったら、次の3つの質問を自分に投げかけてみてください。問いに対する返事は頭のなかに思い浮かべるだけでもいいですが、声に出したり、紙に書きだすと、より効果的です。時間制限は特にありませんが、ひとつの問いに3分とすると、約10分で終わります。

1)なにが見えますか?※3分間で15個以上出せるといいですね
2)どう見えますか?※1)で見えたものは、どんな様子でしょうか?
3)それはなぜだと思いますか?※自由に自分で「この絵についてのお話」を作ってみてください

この3つの問いに対して「正解」はありません。あなたに見えたもの、感じたものが、あなたにとっての正解であり、それは十人十色です。ですから、見えたままに、思ったままに、言葉や文字にすることが大切です。

いかがでしょうか。この簡単な問いに応えていくだけでも、「見る」とはどういうことなのか、見直すことにつながったのではないでしょうか。最初にその絵を選んだ時と、見終わったときの印象が大きく変わった方もあると思います。わたしは初めてこの鑑賞法をしたとき、ふだんの生活のなかで(絵に限らず)「見た」と言っているのが、どれほど曖昧なことであったかとショックを受けました。

対話型鑑賞法をより深めていくと、鑑賞者が自分自身の価値観や美意識に気づき、その世界観を広げていくことができたりもします。ですが、まずは純粋に「一枚の絵をじっくり見る」ことの面白さを感じていただけると嬉しいです。

<日常の禅語>拈華微笑(ねんげみしょう)

お釈迦様が花を拈(ひね)り、微笑んだ。なんだか嬉しくなるイメージですが、禅宗の起源を説く寓話の一場面です。
「(お釈迦様が)言葉で語らずとも、(仏教の開祖となる弟子の一人に)心で伝わった」場面として知られ、心から心へ伝わることの価値を説く解釈が一般的のようです。が、だからといって言葉の役割を否定するものではありません。そもそも仏道はお釈迦様の言葉を学ぶもの。言葉には言葉の役割があり、心には心の役割がある。相互に補いあってこそ、よりよく伝わるというのが本意ではないでしょうか。

わたしが入門している茶道南方流は禅寺で受け継がれてきた茶道です。『南方録』という書物がその茶道精神を伝えていますが、作法の伝承自体は「口伝(くでん)」であり、教科書がありません。お稽古中の先生のお話一句一句(言葉)、所作のひとつひとつ(心)が、作法を教えてくださいます。その両方があっても口伝の難しさを感じるのに、どちらかが欠けたら、伝承は途絶えてしまうでしょう。言葉も心も、どちらも大切と、日々のお稽古のなかで痛感しています。


花祭窯おかみ・ふじゆり(藤吉有里)

「古伊万里」の名で知られる肥前磁器の伝統工芸文化、技術を基にした窯元「花祭窯」のお内儀。おかみとして窯を支えつつ、自らもアートエデュケーターとしてMeet Me at Artを主宰する。

花祭窯(はなまつりがま)
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