その47「おとなの逃げ場」

こんにちは。花祭窯おかみ・ふじゆりです。

新年度スタートの4月。皆さまのなかにも、この春から新しい環境に入った方がいらっしゃるのではないでしょうか。期待と不安が入り混じる季節でもありますね。

変化の激しいときには無理をせず、読書や映画などで、静かな「現実逃避」の時間を自分に作ってあげるのも、おススメです。なかでも読書は、どこででも出来る逃避法。自分のタイミングで本を開いたり閉じたり(=逃避先に行ったり戻ったり)できるので、一番お手軽な方法だと思うのです。

というわけで本日は、「現実逃避」視点でのベスト3をご紹介。

1.『ハリー・ポッター』 J・K・ローリング著
2.『イタリア・ルネッサンス』 塩野七生著
3.『楽園のカンヴァス』 原田マハ著

1位の『ハリー・ポッター』シリーズは全7巻、文庫では十数冊に及ぶ量。本を読んだことがなくても、映画で観たことがあるという方もいらっしゃると思います。本では、その世界観がより詳細に描かれており、ストーリーに一度入り込むと、抜け出しがたい魅力があります。今年はハリー・ポッターのテーマパークが東京としまえん跡に開業予定でもあり、物理的にも足を運べる逃避先となりそうです。

2位の『イタリア・ルネッサンス』も、シリーズものです。全4巻、ヴェネツィア、フィレンツェ、ローマ、そしてまたヴェネツィアと、さながらイタリア周遊旅行を歴史とともに楽しむような物語。塩野七生さんの著書は、学術的な雰囲気もあり読み難いイメージがありましたが、本書のシリーズではそのイメージが良い意味で裏切られました。

3位に入った原田マハさんは、美術館キュレーターとしての実績をお持ちです。彼女の著作には、そのキャリアが生かされた、美術にまつわる小説がたくさん。有名な絵画作品や画家、世界中の美術館が主役・ステージとなるストーリーは、それだけで魅力的な逃避先。なかでも、アンリ・ルソーを描いた『楽園のカンヴァス』は、個人的にイチオシです。

気持ちが忙しいときこそ、隙間時間を見つけて「BOOK逃避」。なので、わたしのバッグはいつも本で重いのです。


<日常の禅語>喫茶去(きっさこ)

声に出して読むと「きっさこ」と優しい雰囲気。「お茶でも飲んでいらっしゃい」とする解釈がある一方で、「お茶を飲んで出直してこい」と、やや厳しい意味を含むとの解釈も。禅語にたびたび登場する「喫茶」がここでは何を示唆するのか、よく考えないと、この禅語の意味の正解には近づけなさそうです。

「お茶を飲んで出直してこい」という解釈を読んだときに、わたしの頭に浮かんだのは、京ことば「ぶぶづけでもおあがりやす」でした。「ぶぶづけ」はお茶漬けを意味し、ストレートに考えれば「お茶漬けでも召し上がりませんか?」となりますが、文字通りの意味ではなく「おもてなしする気はありません」「どうぞお帰り下さい」の意味であるとする「意訳」がまことしやかに広まっていますね。解釈の真偽はともかく、「言葉の真意(あるいは裏)を読む」ことが求められているという点で、禅語と京ことばの共通点を発見し面白く思いました。

さて「喫茶去」。二人の修行者に投げかけられた言葉です。「あなたは前にもここに来たことがありますか?」という問いに対して、一人は「はい、あります」と答え、もう一人は「いいえ、ありません」と答え、その双方どちらもが「喫茶去(お茶でも飲んで出直してこい)」と言われたと。では何と答えたら良かったのでしょう。ある解説書には「問われているのは、場所のことでは無く、先入観があるか無いか」とありました。来たことがあると答えても、無いと答えても、先入観にとらわれていると言われる。どうやら「過去も未来もなく、今だけ」なのだと分かっていれば、もっと別の答え方があるようです。

「喫茶」の入った禅語に「喫茶喫飯(きっさきっぱん)」というものもあり、こちらは一般的には「お茶を飲むときはお茶を飲むことに集中し、ご飯を食べるときにはご飯に集中しなさい」と解釈されています。禅語は「今ここ」の大切さを、さまざまな形で何度も説いているのですね。「喫茶去」もその一つなのだな、と理解しました。


花祭窯おかみ・ふじゆり(藤吉有里)

「古伊万里」の名で知られる肥前磁器の伝統工芸文化、技術を基にした窯元「花祭窯」のお内儀。おかみとして窯を支えつつ、自らもアートエデュケーターとしてMeet Me at Artを主宰する。

花祭窯(はなまつりがま)
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