その46「ミュージカル」

こんにちは。花祭窯おかみ・ふじゆりです。

突然ですが、皆さんは「ミュージカル」お好きですか?

福岡には、演劇専用劇場「博多座」があります。ここ数年足が遠ざかっておりましたが、今年最初の観劇に、念願かなってミュージカル『エリザベート』を観に行くことが出来ました。

ミュージカル。タモリさんが「突然歌いだしたり踊りだしたりするから、気恥ずかしくて観たくない」というようなことをおっしゃっていたのは有名な話です。実はわたしもある時期まで、まったく同じ理由で避けていました。非現実的な展開が、受け入れ難いと思っていたのです。

転機となったのは『レ・ミゼラブル』。もう25年以上前、会社員として仕事に忙殺される毎日を送っていたある休日のことです。たまたま大阪梅田の芸術劇場前を通りかかり、当日席に空席があるのを見つけ、それがミュージカルだという意識が無いまま足を踏み入れたのでした。

幕が開き、「しまった!」と思ったのはほんの一瞬。圧倒的な世界観に惹き込まれ、幕間を含めた3時間半ほどが、あっという間でした。劇場を出た時は、頭も心もすっきり。常に仕事のことが頭を離れなかった毎日でしたが、そのもやもやが吹き飛んでいました。

それまでもふつうの演劇は観に行っていましたし、もちろん気分転換になっていました。けれどもミュージカルは、もともと避けていた理由であった「桁外れの非現実感」ゆえに、格別のリフレッシュをもたらしてくれたようです。それからはミュージカルへの抵抗感はすっかり無くなりました。

さて『エリザベート』。観劇当日の博多座は、九割方女性のお客さまで占められていました。客席は開演前から熱気が満ち、上演を待ちわびていた気持ちが伝わってきました。終演後はカーテンコール。拍手が鳴りやまず、5回も出てきてくれました。肩がだるくなるまで拍手をし続けるなかで、舞台上の演者と、オーケストラピットのなかの演奏者と、観客席のわたしたち、三者が一体となって作り上げられた空間を堪能いたしました。

もし読者の皆様のなかに、以前のわたしのように食わず嫌いでミュージカルを敬遠している方がおられるなら、一度試しに観劇してみませんか。案外楽しくて好きになるかもしれません。


<日常の禅語>人人脚痕下 有一坐具地(にんにんきゃくこんか いちざぐのちあり))

わたしが入門している茶道南方流では、毎年一月の「初釜」のお茶会で、その年の指針となる禅語の色紙をいただきます。今年いただいた色紙にかかれていたのが、この禅語。初めて聞いた言葉でした。

「わたしたち一人一人の足下(あしもと)に、自分が存在するだけの十分な場がある」との解説がついています。「脚下こそが自分の存在根拠である」とするこの言葉、なんと心強いのだろうと嬉しくなりました。上ばかり、遠くばかり見ていると、自分の持っていないものばかり目に入るものです。でもそもそも自分のあるべき場所は既に足下にあるのだと分かれば、これほどの安心感はありません。

これまでにも「脚下照顧」「看脚下」と「あしもと」の大切さを説く禅語がありました。まず足下を顧みる。いただいた色紙には、禅語と一緒に今年の干支・卯(うさぎ)の絵が描いてありました。ウサギが飛び跳ねることが出来るのも、ジャンプの踏み込みをする場所が足下にちゃんとあるから。高く飛び跳ねたいと思ったときには、まず足下をしっかり確認しようと、あらためて思いました。


花祭窯おかみ・ふじゆり(藤吉有里)

「古伊万里」の名で知られる肥前磁器の伝統工芸文化、技術を基にした窯元「花祭窯」のお内儀。おかみとして窯を支えつつ、自らもアートエデュケーターとしてMeet Me at Artを主宰する。

花祭窯(はなまつりがま)
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