ふじゆり的読書『ある一生』ローベルト・ゼーターラー著 New!

こんにちは。花祭窯おかみ&アートエデュケーターふじゆりです。

 歩いて十五分、自転車なら五分の位置に図書館があるのは、とてもありがたいことで、この環境をフル活用しています。本書も図書館から借りてきた一冊。少し前にやはり図書館で借りてきた同著者の本が面白かったので、「著者名検索」で探しました。図書館にある「新刊棚」で「初めまして」の本や著者と出会い、面白かったら既刊書を遡って「追っかけ」る、読書スタイルです。

 さて本書は、主人公エッガーの視点で淡々と語られる、彼の一生の物語。幼少期に養父から受けた暴行で一生残った足の不自由、雪崩による愛する若妻との死別、ロシアでの八年間の捕虜生活と、過酷ともいえる生涯です。にもかかわらず、それらがあたかも特別なことではないかのように、日常の延長のように受け止めて(受け入れて)いる姿の、静かな強さに圧倒されました。

 特別なエピソードにしようとすればできるのに、そうせずに、語られる内容も文体もひたすらに淡々としているところに、著者の意思を感じます。どうしてこんなに胸に響くのか、不思議な読後感でした。公式サイトでの書評に、作家の池澤夏樹氏が「来るものをすべて受け入れ、来なかったものを思わない」と「主人公の美質」に言及しているのを発見し、なるほどと思いました。それは「あきらめる」というのともまた異なります。エッガーの気負いのないスタンスは、自分には到底辿り着けない境地だと思いました。

 本書はドイツ語圏・英語圏をはじめ多くの国で刊行され、八十万部を超えるベストセラーだということです。国や文化の違いを超えて、共感するものがあることがわかります。本書は「新潮社クレストブックス」なるシリーズで、公式サイトによると「世界のあちこちで日々生まれている新鮮で上質な作品の数々を、内容にまさるとも劣らないブックデザインで読者にお届け」するべく、一九九八年に生まれたシリーズ。現代海外文学ファンにはお馴染みで、愛されているシリーズのようです。  


花祭窯おかみ・ふじゆり(藤吉有里)

「古伊万里」の名で知られる肥前磁器の伝統工芸文化、技術を基にした窯元「花祭窯」のお内儀。おかみとして窯を支えつつ、自らもアートエデュケーターとしてMeet Me at Artを主宰する。

花祭窯(はなまつりがま)
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