その36「地域の人々のウェルビーイング(健康や幸福感)」

こんにちは。花祭窯おかみ・ふじゆりです。

仕事柄、アートエデュケーター(教育普及学芸員)としての研修会に、毎年参加しています。ここ数年の研修テーマは「博物館・美術館と医療・福祉・健康」。美術館や博物館は、地域の人々のウェルビーイング(健康や幸福感)に、もっと貢献できる!というものです。本日はそこからのお話をご紹介。

美術だけでなく音楽や演劇なども含めた文化芸術は、人々の健康や幸福感にどれほど影響を与えるのでしょうか。

これまでは「なんとなく心身に良さそう」と主観的・感覚的なものとされてきたものに、客観的・科学的なエビデンス(証明)を示していこうという動きが、世界各国で始まっています。たとえばスコットランドのある地域では、地域の美術館・博物館と医療機関が連携して、高齢者やその介護者向けのプログラムを開発しています。またカナダでは2018年から、患者の健康回復を促進する補助的な要素として、医師が処方箋に「博物館」と書く取り組みがスタート。同様の取り組みは台湾でも試験的に始まっており、「博物館」を処方された患者とその付添人は、指定の美術館に無料で入場することができるなどの実践が行われています。

そんななか、英国ロンドン大学から「芸術を鑑賞する機会の多い人は、鑑賞機会をまったく持たない人に比べて、死亡率が低かった」という報告が2019年に発表されています。これは同大学内の研究グループが、14年間にわたる追跡調査を行った結果であり、ちょっと話題になりましたので、聞いたことがある!という読者の方もいらっしゃるかもしれませんね。これらの研究はまだスタートしたばかりで、これからもっとたくさんの調査結果が出てくるのだと思います。美術・芸術鑑賞の可能性が、ますます広がっていきそうです。

ともあれ一市民としては、これまで通り、自分の好みに応じて芸術を楽しんでいくのみ。「芸術鑑賞」といっても、美術館や博物館に行かなきゃ!と堅苦しく考えなくても大丈夫。まずは身近に飾ってある絵を楽しむことから始めればOKなのです。好きなものを好きなように楽しむことが、健康や幸福感につながるなんて、ラッキーなことですね。

<日常の禅語>春来草自生(はるきたらば くさおのずからしょうず)
春来は「はるきたりて」と読むこともあります。読んで字のごとし。春が来れば、草は自然と生えてくる。その時が来れば、自ずと結果は生ずるという教えです。春の気配が聞こえてくる2~3月頃、お茶席の掛け軸に好まれます。「春来草自生」を目にした時、このような教えをどこか別のところで何度も聞いたような気がする…と思いました。ある朝、日めくり(カレンダー)をめくったときに、その理由を発見。我が家の日めくりは、孔子(こうし)の『論語』カレンダーです。年・月が入らず日付のみなので、毎月毎年延々と繰り返し使っています。その「24日」のところに、それはありました。

曰く「天何をか言わんや 四時行われ 百物生ず」(てんなにをかいわんや しじおこなわれ ひゃくぶつしょうず)。「天は何も言わないけれど、四季(春夏秋冬)は自然とめぐってきて、すべてのものが生まれてくる」というほどの意味です。お釈迦様の教えと、孔子の言葉。思いがけず共通のものを見つけ、なんだか嬉しくなりました。自然の理(ことわり)を突き詰めていくと、辿り着くところは同じ、ということなのかもしれませんね。


花祭窯おかみ・ふじゆり(藤吉有里)

「古伊万里」の名で知られる肥前磁器の伝統工芸文化、技術を基にした窯元「花祭窯」のお内儀。おかみとして窯を支えつつ、自らもアートエデュケーターとしてMeet Me at Artを主宰する。

花祭窯(はなまつりがま)
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